LLM評価の指標一覧表|正確性・忠実性・有害性・コストの測り方まとめ
この記事の結論
- LLM評価の指標は、正確性・忠実性・有害性・コストの4つの軸に分けて並べると、自分の用途でどれを測るかを決めやすくなります。
- この記事は指標そのものを引くためのカタログです。評価セット20件から始める最小構成の手順は、別記事にまとめています。
- 有害性の観点は OWASP Top 10 for LLM Applications 2025 と NIST の一次情報を参照先として併記しています。最終更新 2026-09-10。
LLMの評価(Evals)を始めると、どの指標を見ればよいかで手が止まります。この記事は、指標そのものを引くためのカタログです。正確性・忠実性・有害性・コストの4軸ごとに、何を測る指標なのか、どう計算するのか、どんなデータが要るのか、どこでつまずくのかを一覧表にまとめました。
最終更新: 2026-09-10・読了目安 約8分
指標は4つの軸に分けて並べる
評価(Evals)の指標は数が多く、名前だけ並べても選べません。実務では「何が壊れると困るか」で軸を分けると決めやすくなります。この記事では次の4軸に分けて一覧にしました。
- 正確性:期待どおりの答えを返せているか。分類・抽出・自動処理で最初に見る軸。
- 忠実性:与えた資料の範囲で答えているか。社内文書に答えさせる用途で最重要の軸。
- 有害性・安全性:出してはいけないものを出していないか。顧客に見せる前に必ず1回通す軸。
- コスト・応答時間:運用が続く条件を満たしているか。運用に乗ってから継続的に見る軸。
評価セットの作り方・採点基準の決め方・記録の残し方といった「始め方」は、LLM評価(Evals)の作り方:指標一覧表と最小構成にまとめています。この記事は、そこで選んだ指標を細かく引くための対の記事です。
正確性の指標一覧:期待どおりの答えを返せているか
正解が一意に決まるタスクで使う指標です。自動採点が効くので、まずここから仕組み化すると費用対効果が高くなります。
| 指標 | 何を測るか | 計算・測り方 | 必要なデータ | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 完全一致率(Exact Match) | 出力が正解と1文字違わず一致した割合 | 一致件数 ÷ 全件数 | 入力と正解のペア | 全角半角・末尾の句点といった表記ゆれで不一致になる。比較前に正規化する |
| 適合率(Precision) | 拾ったもののうち正しかった割合 | 正しく拾った件数 ÷ 拾った件数 | 正解ラベル付きデータ | 再現率と必ずセットで見る。片方だけなら「何も拾わない」で満点が作れてしまう |
| 再現率(Recall) | 拾うべきもののうち実際に拾えた割合 | 正しく拾った件数 ÷ 拾うべき件数 | 正解ラベル付きデータ | 取りこぼしが見える唯一の指標。分類・抽出では省略できない |
| F1スコア | 適合率と再現率のバランス | 2×(適合率×再現率)÷(適合率+再現率) | 上2つと同じデータ | 1つの数字にまとまる分、どちらが悪いのかは見えなくなる |
| 形式順守率 | 指定した出力形式で返せた割合 | パース成功件数 ÷ 全件数 | 出力形式の定義(スキーマ) | 内容が正しくても形式が崩れると自動処理は止まる。内容の正しさとは分けて測る |
| タスク成功率 | 一連の作業が最後まで通った割合 | 合格条件を満たした件数 ÷ 全件数 | 1行で言い切った合格条件 | 合格条件が曖昧だと採点者によって数字が変わる。条件を先に固定する |
形式順守率はJSONなど機械が読む形式で返させるときの生命線です。ここが低いまま自動処理に載せると、後段のエラー処理で費用と時間の両方を失います。
忠実性の指標一覧:与えた資料の範囲で答えているか
社内文書やマニュアルを参照させる用途(RAG)では、正しいことを言っているかより「渡した資料に書いてあることだけを言っているか」が重要になります。
| 指標 | 何を測るか | 計算・測り方 | 必要なデータ | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 根拠一致率 | 出力が参照資料の記載だけで構成されている割合 | 出力の主張を分解し、資料に該当箇所があるか照合 | 参照資料と出力のペア | もっともらしい補足を混ぜた出力が最も見つけにくい。文単位で照合する |
| 引用付与率 | 主張に出典が添えられている割合 | 出典付きの主張数 ÷ 全主張数 | 出典を返す仕組み | 出典が付いていても中身が対応していないことがある。根拠一致率と併用する |
| 出典外主張率 | 資料に書かれていない主張が混ざった割合 | 資料に該当が無い主張の数 ÷ 全主張数 | 参照資料と出力のペア | ハルシネーションの実害に最も近い指標。0件を目標として置ける |
| 棄権率(Abstention) | 答えられないときに正しく「分からない」と返した割合 | 棄権すべき入力での棄権件数 ÷ 該当件数 | 答えの無い質問を含む評価セット | 答えの無い質問を評価セットに入れないと、この指標はそもそも測れない |
| 回答の揺れ | 同じ質問への回答同士が食い違う割合 | 同一入力を複数回実行し、結論の不一致を数える | 同一入力の複数回実行ログ | 温度などの設定を変えずに測る。設定が違えば比較にならない |
出典外主張率はハルシネーションの実害をそのまま数える指標です。「もっともらしいが資料に無い一文」を1件も許容できない用途では、この指標を合否の基準に使います。
有害性・安全性の指標一覧:出してはいけないものを出していないか
この軸は、自社で「何が禁止か」を先に文章にしないと測れません。定義が無いまま測ろうとして止まるのが、最も多い失敗です。
| 指標 | 何を測るか | 計算・測り方 | 必要なデータ | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 禁止カテゴリ出力率 | 自分たちが禁止した内容を出した割合 | 禁止パターンの機械検出と人によるサンプル確認の併用 | 禁止カテゴリの定義 | 定義が無いと測れない。「何が禁止か」を先に文章にする |
| 拒否の適合率 | 断るべき入力を断り、断るべきでない入力に答えた割合 | 両方を混ぜた評価セットで集計 | 断るべき入力と答えるべき入力の両方 | 断りすぎも失敗として数える。片側だけ見ると使えないほど固い挙動になる |
| 個人情報の露出率 | 出力に個人情報が含まれた割合 | 検出ルールでの機械判定と人の確認 | 個人情報の定義 | 入力側の混入も同時に見る。ログに残ると被害が広がる |
| プロンプトインジェクション成功率 | 外部データに仕込まれた指示に従ってしまった割合 | 攻撃サンプルを流し、逸脱件数 ÷ 試行件数 | 攻撃サンプル集 | 対策後も0%にはならない前提で、権限側の制限と併用する |
| システムプロンプト漏えい率 | 内部の指示文をそのまま出力した割合 | 誘導プロンプトを流し、内部文言の一致を検出 | 内部指示文の原文 | 漏えいを前提に、指示文へ秘密情報を書かない設計にする |
攻撃サンプルの分類は、OWASP LLM01:2025 Prompt Injection と NIST AI 100-2 E2025(Adversarial Machine Learning) が出発点になります。個人情報の定義は 個人情報保護委員会の解説 を参照してください。対策そのものはプロンプトインジェクション対策の一覧表 2026にまとめています。
コスト・応答時間の指標一覧:運用が続く条件を満たしているか
品質が足りていても、費用と待ち時間が許容範囲を超えれば運用は止まります。実行ログから機械的に集計できる軸なので、最初に自動化しておくと後が楽になります。
| 指標 | 何を測るか | 計算・測り方 | 必要なデータ | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| 1件あたり入出力トークン数 | 1回の処理で消費したトークン量 | 実行ログの入力・出力トークンを件数で平均 | 実行ログ | 入力側は参照資料の量に比例する。資料を足すと静かに増える |
| 1件あたり費用 | 1回の処理にかかる金額 | 入力トークン×入力単価 + 出力トークン×出力単価 | 実行ログと利用中の単価表 | 単価は変わる。計算式に埋め込まず、単価を外に出しておく |
| 初回トークンまでの時間 | 利用者が「反応した」と感じるまでの待ち時間 | 最初の出力が届くまでの時間を計測 | 応答ログのタイムスタンプ | 平均ではなく上位95%点で見る。遅い側の体験が離脱を決める |
| 総応答時間 | 処理が終わるまでの時間 | 開始から完了までを中央値と上位95%点で集計 | 応答ログ | ツール呼び出しが増えるほど伸びる。呼び出し回数と一緒に見る |
| 再試行率 | 失敗してやり直した割合 | 再試行件数 ÷ 全件数 | 実行ログ | 形式順守率が低いと再試行が増え、費用と時間の両方が悪化する |
| 1件あたりツール呼び出し回数 | 1回の処理で外部ツールを呼んだ回数 | 実行ログの呼び出し数を件数で平均 | ツール呼び出しログ | 上限を決めないと、失敗時に呼び出しが際限なく増える |
費用の考え方は推論コストとAIコーディングエージェントの費用管理もあわせてご覧ください。
参照した一次情報
この記事で挙げた分類・用語の出どころです。いずれも公的機関または標準化団体が公開している一次情報です。
| 資料名 | 発行元 | 分かること | リンク |
|---|---|---|---|
| Top 10 for LLM Applications 2025 | OWASP | LLMアプリで起きる代表的なリスク10種の分類 | genai.owasp.org/llm-top-10/ |
| LLM01:2025 Prompt Injection | OWASP | プロンプトインジェクションの定義と攻撃の型 | genai.owasp.org/llmrisk/llm01-prompt-injection/ |
| AI Risk Management Framework | NIST | AIのリスクを統治・特定・測定・管理する枠組み | nist.gov/itl/ai-risk-management-framework |
| AI 100-2 E2025(Adversarial Machine Learning) | NIST | AIへの攻撃と緩和策の用語・分類 | csrc.nist.gov/pubs/ai/100/2/e2025/final |
| 情報セキュリティ10大脅威 2026 | IPA(情報処理推進機構) | その年に社会的影響が大きかった脅威の一覧 | ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html |
| 個人情報保護法について | 個人情報保護委員会 | 個人情報の定義と取扱いのルール | ppc.go.jp/personalinfo/legal/ |
関連記事・用語
始め方はLLM評価(Evals)の作り方:指標一覧表と最小構成、用語の定義は評価(Evals)とベンチマークにまとめています。ツールを呼ばせる設計はAIエージェントのツール呼び出し設計チェックリスト、攻撃への備えはプロンプトインジェクション対策の一覧表 2026もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q1. 4つの軸のうち、どれから測ればよいですか?
自動処理に組み込むなら正確性の「形式順守率」から、社内文書に答えさせる用途なら忠実性の「根拠一致率」から始めるのが実務的です。有害性は顧客に出す前に必ず1回通し、コストは運用に乗ってから継続的に見ます。すべてを同時に始める必要はありません。
Q2. 指標のスコアは何点あれば合格ですか?
共通の合格ラインはありません。合格ラインは用途ごとに決めるもので、形式順守率は自動処理ならほぼ100%が必要ですが、下書き支援なら多少崩れても実害は小さいままです。まず現状値を測り、事故が起きたときの損害の大きさから逆算して基準を置いてください。
Q3. 指標を増やすほど評価の質は上がりますか?
上がりません。指標が増えるほど集計と解釈のコストが増え、どれを見て判断するのかが曖昧になります。判断に使う指標は用途ごとに2〜3個へ絞り、残りは事故が起きたときに原因を切り分けるための補助として置いておくのが現実的です。